研究活動
研究内容
2014年度から、日本の全国自治体にて新生児マススクリーニング(NBS)にタンデムマス法が導入される。対象疾患となるアミノ酸代謝異常症、有機酸代謝異常症、脂肪酸代謝異常症などについては、これまで日本ではオーソライズされた診療ガイドライン(GL)がなかった.そこで、難治性疾患克服研究事業領域別基盤研究分野「新しい新生児代謝スクリーニング時代に適応した先天代謝異常症の診断基準作成と治療GLの作成および新たな薬剤開発に向けた調査研究班」(遠藤班)と先天代謝異常学会とが共同して、平成24-25年度にNBS対象疾患に対する診断基準および診療GLを作成し、後者も26年度には公表できる予定である.このGLは、タンデムマスによるNBSが先行した欧米における文献を参照しながら作成してきたが、欧米においてもエビデンスレベルの高い論文はほとんどないと言うのが現状である.また日本人と欧米人の体質の差、遺伝子変異の差あるいは生活様式、食事習慣などの差なども考慮すべきで有り、GL作成上で多くのクリニカルクエスチョン(CQ)が生じている.本研究班では、NBSで診断される疾患について、可能な限り全例追跡調査を行い、これらCQについて、日本発のエビデンスを得て世界に発信し、診療の質を高めることを目的とする(図1、2参照).
平成26年度には、いくつかのCQに対する臨床研究プロトコールを立ち上げる.また先天代謝異常症遺伝子診断パネルを構築する.平成27年度にはその臨床研究を実際にスタートし、遺伝子診断パネルを実際に運用する.平成28年度には途中経過ではあるがCQに対する臨床研究結果,遺伝子診断パネルでの解析結果をふまえ,診療GLの改訂をおこなう.
領域別基盤研究分野(遠藤班)と情報の共有、協力体制をとるが、本研究班はGL改訂に向けた日本発のエビデンスを得るための研究である.遠藤班および日本先天代謝異常学会、日本マススクリーニング学会の支援を得て研究をおこなう.
本研究班は対象となるのが19以上の希少疾患であり、その専門家が研究班に分担者としてはいっているので,オールジャパンの体制をとれることがまず特徴である.そのもとで得られたCQへの解答は確実に診療GL改訂に反映でき、発信可能である.遺伝子診断パネルを用いた遺伝子型の確定は、関連する遺伝子の異常も検出でき、日本発の新たな情報を提供できる.
研究全体の計画
NBS対象疾患は19〜25と数が多いが、それぞれ稀少疾患であり、日本全国の症例を対象にした研究が必要である.症例数を確保するのに全例近くをコホートとして研究する必要があり、そのためにNBS対象疾患全体をカバーする幅広い専門性および幅広い地域をカバーする研究分担者、協力者が必要であるし、全員が実際にGL作成にも貢献したメンバーである.現時点でGL作成時に提起されたCQは流れ図内に示した. CQは多く有り、どれか一つを研究班で解析するというわけにはいかず、平行して進行することになる.本研究におけるホームページを開設し、患者家族からの質問を受け付け、また逐次その進行状況をアップデートしていく.年1回は家族会も参加出来る公開シンポジウムを開催する.
欠損酵素の遺伝子型が残存活性をもつかどうかでも大きく臨床像、予後が異なり、治療法にもその情報が反映されるべきであるが、遺伝子型も欧米と日本では大きく異なっており、欧米と同じ疾患であっても欧米における治療法のGLをそのまま日本の患者に適用することは危険である.そのため本研究では出来うるかぎり遺伝子型を確定して追跡調査を行うことにより、より適切か評価が出来るようにする.現在の研究分担者でNBS対象疾患の遺伝子型を決定することが可能である.しかしまた疾患の重症度は関連する代謝系のほかの酵素群の機能により修飾を受ける可能性もあり、欠損酵素を含む代謝系全体での評価は新たな疾患の重症度、治療法選択に影響を与える可能性があり、NBSで同定される疾患の責任遺伝子のみの解析でなく,代謝酵素群をパネルとして解析することが非常に有効と考えられる(CQ14,15).本研究においては、日本発のNBS関連疾患遺伝子パネルを開発し、それを遺伝子診断に応用する.これは研究分担者としてかずさDNA研究所の小原が加わることで可能となる.